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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2018年

コスモス一月号

副虹もさらに加はり夕空は神の祭りのやうな華やぎ

夏負けで十七キロも減りたるとありしが友の最後のメール

膵がんの見つかりてより二週間明子は明心大姉となりぬ

見慣れない「教へ子葬」の四文字が訃報メールに点るがごとし



コスモス 二月号  

イタリアで極光を見しガリレオが〈オーロラ〉と名を付けたりと聞く

極光に女神のみ名をつけしとふ科学者ガリレオ、詩人の心

母まさば百五回目の誕生日 青紫の桔梗がひらく

スカイプを介してピアノデュエットす七十七女と五歳男児と

訪め来ればカズオ・イシグロを読みませり介護ホームに入りし友が



コスモス三月号 (小島ゆかり選)

北へ行く宗谷本線 名寄にてほとんどの人降りてしまひぬ

振り返りふりかへりして逃がれゆく列車にぶつかりかけたエゾシカ

稚内の駅前通り新調のスパイク付のブーツで歩く

避難小屋のやうに扉が付けてありノシャップ岬に近きバス停

「晴れならばあの辺りだ」と夫が差す 心眼で見るかの利尻富士




コスモス四月号 (影山一男選)

女坂見つけて登るこれまでの生き方はもう変へてよい頃

「旅の歌は詠まぬがコツ」と復唱しペンと手帳をリュックにしまふ

初デートの映画帰りに寄りたりき道玄坂のカレー屋「ムルギ―」

「卵入りムルギ―二つ」と注文し十九歳の私に戻る



コスモス5月号 (桑原正紀選)

ゆく川のごとく月日が流れしをかみしめながら『方丈記』読む

『方丈記』がよくわかりすぎ気が塞ぐ 七十七歳老女としては

ふるさとは町の名前も変りたり流れも暗渠となりて隠れぬ

身の厚く重き鰈をいただきぬ海に働らく歌の友より

英語ではどちらもFLAT FISH(フラットフィッシュ)なり 鰈・鮃の区別はせずに


コスモス6月号

また来てね

五年前ミディではきゐしスカートが足首隠すロングとなりぬ

病み篤き友の右手をそつととり祈りを込めて我が掌に包む

「また来てね」ささやくやうに言ひまして友はふたたびまどろみ始む

友の病むホームを辞して中川の土手にしばしを坐り込みたり

シャンソンの上手な友の「C'est Si Bon」また聴ける日を信じ待つべし



コスモス7月号

三重の濠と繁れる樹々の内に護られて在り仁徳陵は

VRのゴーグル越しの疑似飛行 仁徳陵を真上から見る

「また来てね」「また来るわね」と別れたり または二十日(はつか)後今日の弔問( また に 傍点)

肌寒き弥生の空の月を見る黒きバッグに数珠を収めて



コスモス八月号

獺祭のごとく

渇筆に気迫こもれり亡き人の健やかなりし頃の作品

現代書の絵画の要素少しずつ象形文字に寄りゆく気配

獺祭のごとく領収書をならべ確定申告一気に仕上ぐ

気のはやきつばめが数羽戻り来ぬ雨期の終りの四月中旬

宙を切り低く飛び交ふつばめたち 四月のカナダはまだ寒からう


コスモス九月号

わが夫が無事八十になりたるを本人よりも我がよろこぶ

八十になりたる夫のたしなみのゴルフは今日で十日連続
   ( たしなみ に 傍点)

誕生日 朝ふかしたる赤飯を夫のゴルフの弁当にする

冷蔵庫(フリッジ)が壊れてただの箱になる食品食材収めたままで



コスモス十月号

雨晴れて苔の緑に薄日さす新渡戸稲造記念公園

七夕の茶事に招かれ久々にニトベ・ガーデン茶室に入る

天の川に見立てて葛の涼やかな主菓子(おもがし)に置く金箔は星

その樹齢四百年の杉に吹くカナダの風に笹もさやげり

涼しげなガラス茶碗に戴きぬほのかに甘き八女(やめ)の抹茶を



コスモス十一月号

英語の『源氏物語』

アーサー・ウエリー以来の完訳タイラーの『源氏物語』(The Tale of Genji)ずしりと重し

現代の英語で書かれ平易なりタイラーの「源氏」の地の文章は

幾度も和歌の英訳読み返す原作よりもわかりにくくて

英訳の後朝のうたに見るLOVEと和語のあいでは湿度がちがふ(LOVE と あい に傍点)

手にしたる古書の英訳「源氏」には細かき文字の書き込みあまた



コスモス十二月号

山火事の煙霧が街を覆ふ朝ハトもカモメもカラスも鳴かず

眼がうるみ時に頭も重くなる野火の煙霧が街を覆ひて

モンゴルを旅する友が送り来しメール画面に草原の虹

立ち襟の蒙古の服をゆつたりと着こなす友は旅の六日目

地平線くれなゐに染め日が沈むうねりて続くゴビの砂漠に




武蔵野支部歌会 三月  ガラス と 植物
こんもりと松に積もりし雪溶けてガラスのやうなつららが光る

武蔵野支部歌会 十一月
他界せし父の齢まであと二年そのふるさとの海岸に立つ


東京歌会十一月
難題はグーグル先生まかせなり 教えてもらいその場をしのぐ



バンクーバー歌会 一月

「職業はご主婦ですか」と問はれたり作り笑顔の銀行員に (ご に傍点)

〈ご主婦さま〉と寮母を呼びき女子高の寮生なりしころのわが姉



バンクーバー歌会 二月
題詠「坂」

帰国する度に訪ねてゆきたりき梨の木坂の下の鈴木家

霧雨の梨の木坂を登りたり土の香りの立ちくるゆふべ


バンクーバー歌会 三月

「おかあさ~ん」と呼んで泣きゐしをさな児が今父としてがつしりと立つ

「あわてるな、ふつうが一番速いよ」と自分に言へり ドラマをまねて


バンクーバ―歌会四月 

さらさらの沙が半分ほど入る沖縄土産ガラスの小瓶

穂を揃へ小さき土筆が群生す風の涼しき夏のゲレンデ


バンクーバー歌会五月

空海に因み「大師」の銘を持つ細き筆ペン東寺にて買ふ

面相のやうな穂先の細筆に写経の線が少し震へる


バンクーバー歌会六月

オーロラを待ちて四日目北空に碧(みどり)の光揺らぎはじめる

凍りつくアラスカハイウエイ北上す極光蒼くゆれる明けぐれ



バンクーバー歌会七月

春の野を濃き紫に埋めつくしルピナスの穂が天を指したり

年輪のすこしいびつな切り株に吹きだすやうな脇芽数本


八月

ひさびさの正座に足を気にしつつ席に入りぬ七夕の茶事

足腰の痛みを直す中敷の広告見つけ切り抜いておく



九月

日本語に興味持ちて友が訊く「ヨシ」と「ヨイショ」の意味の違ひを

「発音がよく似ている」と友が言ふ わが口癖の「ヨシ」と「ヨイショ」は


十月 詠題 「旅」

モンゴルを旅する友が送り来しメールに大き虹の立ちたり

モンゴルの旅の土産にいただきぬとんがり帽と臙脂のデール


十一月

暖かくそつと心が包まれぬ知人が友に変はる瞬間

新調の黄色いシャツによりてくる今忙しき秋のミツバチ


十二月

「曇りのち晴れ」の予報を裏切りて土砂降りの雨舗道を洗ふ

にはか雨逃れて入る喫茶店アール・グレイをゆつくりと飲む



Gusts 27

Stubborn as
prime numbers!!
a 13 years old boy
and his 79 years grandpa
never concede to each other


Live from
the web camera,
I am watching
the Northern Light
in a warm living room


Again,
the cell phone
is left on his desk
still connected
to the charger



GUSTS 28


After forty days’
of dry spell,
it started to rain
filling the morning air
with the soft smell of the soil


“It is raining” she said
“ Scottish mist” he smiled
....and OUT they went together
her umbrella opened
and his folded like a cane


On his eightieth birthday,
my husband didn’t look
particularly happy
Too shy to express
his excitement ...I know.


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